雨と蛭と霊仙山

滋賀県の右上の方、鈴鹿山脈の最北に位置する山、霊仙山。カルスト地形で標高1000mちょっとの山とは思えないような景色が山頂付近に広がっている。これまで霊仙山には過去2回登っている。初めて登ったのは8年くらい前。大学院に入学して1ヶ月ほど経った頃に修士2年の先輩と学部3年の後輩と3人で登った。先輩のアテンドで汗拭き峠から落合へ向かい、そこから山頂を目指した。2回目は去年。大学院時代の友人と汗拭き峠から山頂に向かい、その後落合側に下山してそこから汗拭き峠に戻るルートで登った。それぞれ登りと降りのルートは違うが、麓まで車で行っていたのでスタートとゴールはどちらも醒井養鱒場付近にある駐車場だった。

そこで今回はこれまでとは違うルートを登りたくて、電車で麓まで向かった。柏原駅から登って、落合に降りて汗拭き峠に通って醒ヶ井駅に向かう、合計で25キロ弱の計画である。当初、醒ヶ井駅ではなく米原駅まで歩くことも考えたが距離・累積標高ともに結構なストロングスタイルになりそうだったので断念した。今考えればこれは断念しといてよかった。計画を立てている時はワクワクして冷静さを失いがちになってしまう…。

柏原駅

当日の天気予報は午後から晴れる予定だったけど、柏原駅に着いた9時の時点では山には雲がかかっていた。空も全体的にどんよりとした灰色で、本当に晴れるのかと半信半疑だったけど、せっかくきたので登ることにした。歩き始めるとすぐに林道に入った。杉林林道、薄暗い。前日の雨の影響なのか地面はぬかるんでいるし、ちょっとした川になっている箇所もある。これは先が思いやられる。

平尾台はハーフパンツで行って失敗した。その反省を活かして、先週の愛宕山はロングパンツで登ったが案の定めちゃくちゃ暑くて、脛の汗が尋常じゃなかった。不快指数MAX。そんなこんなでこの日はハーフパンツを選択。ただ平尾台の反省は活かして脛ガードの意味で膝下の着圧ゲーターを持って行った。これを林道に入って直ぐに着けた。しかし膝は肌が出ている。これが甘くて、後で血を見ることに…。

林道をしばらく歩いていると大きな養鶏場が見えてくる。これを通り過ぎ、橋を渡ると登山口。橋には養鶏場から逃げ出したのか数羽の鶏がいた。野生(?)の鶏は初めて見た。

谷間にルートがあるため、林道と同じく登山道も川ができていた。杉林にシダ類が生い茂っていて鬱蒼としている。山ビルが出そうな雰囲気をビシビシと感じて、かなり飛ばして登った(後で記録を見返すとコースタイム200%で登っていた)。曇っているからか気温はそこまで高くなかったが湿度がすごく、登り始めてすぐに汗が吹き出した。しかしヒルが怖すぎてザックを下ろして水を飲む気にならない。こういう時はトレランザックのようにショルダーハーネスに水を入れられると行動しながら補水・補給できて便利だなと思うが、ザックを下ろして一息つくあの感じが好きで、ハイキングの休憩はザックを一々下ろしたい。なのでしばらく補水は我慢してどんどん登った。

しばらくするとルートが谷間から外れて、景色が少し開けた。ここでザックを下ろして素早く水を飲み、塩分タブレットを食べて一息つく。すでにTシャツは汗で飽和状態になっていた。ゆっくり休憩していると二酸化炭素に吸い寄せられて良からぬものが近寄ってくるので休憩もそこそこにザックを背負い直して出発する。

ある程度まで登ってきたからか、少し開ける場所があった。ここは展望が良かった。

四合目までくると開けた場所に古いトレーラーがあった。どうやら避難小屋のようだが扉は外れ、かなりの箇所が錆び付いている。ここで一息ついていると霧が肌に当たった。熱った体を自然のミストシャワーが冷ましてくれる。電波が届かないので天気予報を見ることはできないが、なんとなく、今日はもう晴れることはないだろうと思った。頂上まで行ってもガスって何も見えないだろうし、最悪の場合は豪雨や雷雨もあり得る。このまま進むのか、撤退するのか。少し悩んで、まだ雨にはなっていないし、とりあえず行けるところまで行ってみることにした。

四合目、この辺りから天気が怪しくなった

しかし5、6、7合目と進んでいくにつれて霧は濃くなっていき、いよいよ怪しくなってきて上半身はレインを羽織った。日帰りハイキングでは当日雨が降っている場合はそもそも山に行かない。なのでレインウェアを着てのハイキングは久しぶりだった。今年新調しためちゃくちゃ軽いレインウエアはだいぶ薄手だけど小雨程度なら全く問題なかった。雨が当たるたびに軽快に水を弾いている。山は霧に包まれて、いつの間にかあんなに鳴いていたセミや鳥の声は消え、雨音だけが聞こえる。たまには雨の日の山も悪くない。

樹林帯を抜ける最後の登りは結構な急登だった。顔を上に向ける余裕はなく、手を使って登る。登り切ると辺り一面真っ白だった。やはり目印となる何かがないと霧の中は怖い。自分がどこにいるのかわからなくなる。幸い雨は止んでいたが、またいつ降り始めてもおかしくない。この時点でルートを短縮することに決め、霊仙山を踏まずに汗拭き峠に下ることにした。避難小屋でそそくさとおにぎりを二つ口に放り込み、補給を済ます。経塚山まで少し登ったらカルストの中を急足で降り始めた。

この辺りから最後の登り
まっしろ
ここで休憩した

降っていると右膝の外側が痛み始めた。ここ最近急に痛み始めた腸脛靭帯炎が降りの衝撃で発動したのだ。どこかのタイミングで痛みが出るだろうと思っていたので、用意しておいたサポータをザックから取り出して右膝につける。痛みが全て消えるわけではないけど着けるとだいぶましになった。
少し進むと左手にそこそこの血が着いていることに気づいてギョッとした。いよいよヒルにやられたかと、ザックを下ろして身体中を触りながら吸引箇所を探していく。一人なので背中側を目視することはできないが、数分探しても見つからない。いつまでも探してられないので諦めて進むことにした。下山後川で泥を落としている時に気づいたのだけど、どうやらサポーターを着けた右膝の後ろに吸着していたようで、サポーターを着けた際に圧死して血が噴き出たものが手についたようだった。おぅ…。

この辺りでヒルを潰したっぽい

降っていると幾つかのグループとすれ違った。こんな天候の日に登る人が自分以外にもいたのかと謎の安堵感を覚えた。去年汗拭き峠から登った時、滑って登りにくかった場所があったことは覚えていた。それもあって計画時には汗拭き峠ではなく落合に降るルートにしていた。登りで滑るなら降りは間違いなく滑る…!
その不安は的中。一歩踏み出せば明らかに滑る未来が見えるほどに、雨に濡れた粘土質の土は滑り台と化していた。いつ滑ってもすぐに手を付けるように、膝を曲げて進んでいく。どうやっても滑りそうな場所は三角座りの姿勢で最初から滑ることにした。何度か尻餅はついたけど、大きな怪我をすることになくここを切り抜けることができた。危なかった。

滑る箇所は必死で写真撮ってない

その後は滑ることに気をつけながら軽快に飛ばして降った。これといって楽しみがあるわけでもないのでさっさと降って、このハイキングを終わらせたかった。しかし登山道を抜けてアスファルトの道に出てから醒ヶ井駅までが長く、8キロも歩いた。

駅までひたすら歩いた

道中川が流れていて岸まで降りられそうな場所を見つけて汚れた手や足、靴を洗った。このタイミングで右膝裏をヒルに吸われたことにも気づいて、傷口からヒルジンを押し出しまくった。醒ヶ井駅に着くとどっと疲れが押し寄せてきて、電車が来るまでの30分間、誰もいない駅のホームで眠った。これがこの日一番気持ちよかった。レインを腰に巻き、汚れたハーフパンツを隠して家まで帰って風呂に入ったらまた眠気が襲ってきた。最高のハイキングとは言えないけど、微妙なコンディションでも無事に帰ってこれたので良しとする。来週はお休みするか、気が向いたらまた愛宕山で遊ぼうと思う。

経塚山(霊仙山撤退) / titoさんの経塚山(滋賀県)の活動データ | YAMAP / ヤマップ